20歳のとき、私は愛について全て分かっていると思っていました。健康的で親密な関係とはどうあるべきか、欲望というものがどう作用するのかも分かっているつもりでした。今、20年にわたる試練と苦難を経て親密性について持っていた考えはその定義を失い、どんどん複雑で混乱するほど矛盾してきています。こういった個人的な経験を反映した『タッチ・ミー・ノット』は、人間が思慕しながら、接触するために触れたり触れられたりすることの(非)能力についてのアーティスティックな探求なのです。
親密性は人間が生きていくうえで核となりますが、そのルーツは母と新生児の初めての身体的、感情的、心理的な繋がりにあります。乳児がもつ、この愛着の第一歩が世界との初めての接触になり、そこから自己意識を構築していくのです。この初めの接触が幼児の脳を形作り、自己肯定感と周囲に何を求めるかに深く影響をあたえます。そして、大人として親密性にどう向き合うかにも影響をあたえます。
このアイデンティティ形成における重要な過程の次には、個人レベルでの健康的な親密性が集団レベルでの関係にも大きく影響し、密な愛着を介し人間の心理社会的な繋がりを生みます。家庭内における親密性の歪みは、争い、虐待、差別、偏見の土壌をさらに広げ、社会や政治にまで影響をおよぼします。
『タッチ・ミー・ノット』が作ろうとしていのは、鑑賞者が人間についての知識を深め、それぞれの親密な関係に関する経験と考えをあらためて評価する、(自己)反映と変化のための空間です。特にフォーカスをおくのは、客体化を止め、人との交流をより人間味のあるものすること、他者への好奇心を高めること、そして自分を他者の肌に重ね感情移入する力についてです。私は人間性を理解し、他者を自分の姿、またはもう一人の自分のように捉える視点を持つことは、心の内の自己と他者との関わり方において本質的な変化をもたらす力になり得ると信じています。グスタフ・ランダウアーは言いました。「社会は革命によって変えられるものではない。社会は人間同士の関係性やふるまい方といった人間のあり方によって変えられる。つまり、人との関わり方を別のふるまいに変えることで、社会を変えるのである。」
監督 アディナ・ピンティリエ